路上ライブでタダでCDをあげた話
2008年に沖縄から上京した俺は
所属事務所の社長に言われて、
いやいやながら路上ライブを始めたのだった。
品川駅の港南口で出会った1人の女の子
路上ライブをスタートしてからだいぶ慣れてきた頃、
たまたま歌ってた曲と場所が合っていたのか
品川駅の港南口は俺が路上ライブをするメインの場所となっていた。
オリジナルの曲を歌う前にカバーソングを何曲か歌って
人がある程度集まってきたらすぐにオリジナルを紹介して歌う。
そのあとにいったんライブを終えてCDを売る。
これが基本的な流れ。
11月頃の晴れたお昼だったかな、その日もクラプトンの「Change the world」とか
超有名なベット・ミドラーの「The Rose」をカバーして、オリジナルを歌った。
喉の調子は悪くなくて、CDの売上もなかなか好調。
CDは1枚1,000円。
音楽だけで何とか食えていた俺は、正直1枚でも多く売らねば
ならぬ状況だった。
その時15歳ぐらいの女の子が目の前にやってきた。
外人なんだけど、どこの国だろ。欧米ではなかったと思う。
で、ポケットからクシャクシャになったお札を出して
どうやら「CDを買いたい」とジェスチャーをしながら言っているようだった。
ドルじゃなかったけど、顔がなんとなく中東っぽかったからそっちの国なのかな。
いちおう俺も生活かかっている身ので、
ジェスチャー込みで「日本円は持ってないの?」と聞いてみた。
その子は「これしか持ってないんです・・・買えないですよね?無理?」
みたいな感じに聞こえた(見えた)。
う~ん、困ったな。どっか両替できるとこはないものか。
もちろんタダで渡すのは他のお客さんに申し訳ない。ううううう。
俺はその子の「どうしても欲しいんです!」という熱意が伺える
ちょっと泣きそうな表情にとうとう負けてしまった。
なんかもう、無我夢中ってこのことかって思ったから。
CDにサインをして、その子に渡してあげた。
お札を渡そうとしてきたけど、「いいよ、出世払いで。いつかライブに来てくれ」
とバリバリの日本語で返して笑顔で手を差し出した。
女の子は両手で握り返してくれて、
「ほんとに、ほんとにありがとう!!」って言って(そう聞こえた)
お辞儀をして去って行った。
たぶん、彼女がお金じゃなくてどんぐりとかお花を渡そうとしても
俺はCDを渡したかもしれない。(かわいそうってことじゃないから決して)
あの一生懸命な表情と身振り手振りで頼まれたら、
明日の飯代がないぐらい困ってても正直断れなかったと思う。
「音楽は国境を越える」ってのは当たり前だけど、
コミュニケーションは国境を越えるってことなんだ。
あのぐらいの一生懸命さで、全力で、俺は人に伝えられてるかな?
レッスンだとしたら生徒への指導。
プライベートだとしたら大事な人との会話、態度。
仕事だとしたら仲間や同僚との関わり。
歌だとしたら、表現やお客さんとのキャッチボール。
ちょっと振り返ってみたらあの子に今の俺は全然負けてるな。
あの女の子がお母ちゃんになって子供連れてライブに来てくれるぐらい、
俺もまだまだ大きくならなーいかん。
もう何年も経ってるけど、CDを売ったりしないでどうか持っててくれてますように。
(売れないから!)